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AQL(合格品質水準)とは?~その意味と基礎知識

AQL(Acceptable Quality LevelまたはAcceptance Quality Limit=合格品質水準)は、1999年に国際標準化機構のISO 2859規格よりもわずかに早く制定された、日本工業規格JIS Z 9015に準拠しています。AQLは品質管理の手法の一つであり、”工程内で製品の品質を作り込み、不良品を製造しない”という考えに基づいています。
しかし、Acceptable(許容できる)という言葉が使われているように、あくまでも「許容範囲」であるため、検査を通り出荷されたロットに含まれるすべての製品が完全であると保証するものではありません。

AQLによる品質管理は、ロットごとの抜き取り検査によって行われます。AQLは、抜き取り検査で合格できる最低限の品質を意味し、製造工程平均として十分であると考えられる上限の値(最大不良率)で、百分率(%)または100単位あたりの欠点数で表されます。(たとえば、AQL=0.65とは、不適合率が0.65%であることを意味します。)

抜取検査は、JIS Z 9015-1(ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式)に準じます。設定するAQLは、全数検査ではなく抜取り検査である以上、AQL=0.1%が限界と言われています。AQLを平均より悪く設定すれば、合格率は上がりますが品質は下がり、平均より良くすると、品質は向上しますが不合格が多くなりコストがかさむ、という事態になるため、工程平均のバランスをとることが重要です。つまり、AQLは、生産する側が達成できる品質と、消費する側が希望する品質との妥協点に設定されるのが理想と言えるわけです。

AQLによる抜取検査とは?~基準やサンプル数&全数検査

AQLによる抜き取り検査とは、ロットから任意の個数を抜き取ったサンプルを検査することを意味しています。サンプル数は、品質を保証するレベル(AQL)によって決められます。設定したロットに対する判断基準により合否を判断し、不合格と判断された場合、そのロットはすべて処置されます。したがって、抜取検査で合格しても不適合品が混在していたり、本来は合格であっても不合格となったりする場合もあります。その許容範囲を受け入れた上で、抜取り検査を実施することになります。
一方、抜き取りではなく、製品すべてを検査する場合を「全数検査」と呼びます。

全数検査であれば高品質を保証できますが、以下のような全数検査ができない場合や必要のない場合は、抜取り検査を実施します。

●信頼性試験(寿命試験や破壊試験など)によって、製品が壊れてしまう場合。
●連続体(飲料や布地など)になっているため、すべてを検査できない場合。
●ロットが大量なため、ある程度不適合品が混入していても許容される場合。
●検査費用がかかりすぎるため、全数検査が不可能な場合。
●検査項目が多すぎる場合。

また、基本的に数量の多い材料や機材などは、抜き取り検査に適しています。
抜取検査においては、基本的にはロットで管理できなければなりません。

抜取り検査には、下記の種類があります。

●計数型抜取検査・計量型抜取検査
●基準型抜取検査・選別型抜取検査・調整型抜取検査・連続生産型抜取検査
●一回抜取検査・二回抜取検査・多回抜取検査・逐次抜取検査

ちなみに、AQL指標型抜取検査方式であるJIS Z 9015は、計数調整型抜き取り検査に属します。

JIS Z 9015-1とは?~その抜取検査手順

JIS Z 9015-1とは、日本工業規格(Japanese Industrial Standards=JIS)で制定された抜き取り検査規格のことで、「計数値検査に対する抜取検査手順-第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式」という標題が付けられています。JIS Z 9015-1は、1999年に制定され、同時期に制定された国際規格ISO 2859-1と同等の位置を占めています。現在、JIS Z 9015-1は、日本での標準規格とされており、AQL(合格品質水準)を品質指標として使用します。

JIS Z 9015-1に基づく抜取り検査手順は、下記の通りです。

(1)aqlを決定する。
(2)ロットの大きさを決める。
(3)aqlによりサンプルサイズ文字を決定する。
(4)抜取形式を選定する。
(5)検査の厳しさの水準を決定する。
(6)ロットからサンプルを抜き取る。
(7)サンプルの検査、試験を行う。
(8)判断基準により、ロットの合否を判定する。
(9)合格であれば出荷し、不合格であればロットごと処分する。

JIS Z 9015-1は、連続したロットを継続的に検査するシステムなので、品質に応じて「なみ検査・ゆるい検査・きつい検査」と、検査の厳しさを調整することができます。不適合率が、設定したAQLより低くなれば「ゆるい検査」へ移行することができ、必要サンプル数や検査コストを削減できるようになります。抜取り検査マニュアルには、「OC(検査特性)曲線」というグラフが掲載されています。「OC(検査特性)曲線」は、ロットの品質に対して、検査で合格になる確率を示したもので、サンプルサイズや合格判定個数、抜取検査方式などによって形が異なってきます。

AQLの計算と設定方法~その1

製品の品質管理におけるAQLの計算と設定方法についてご説明いたします。AQLを決める場合には、さまざまな判断方法があります。

●必ず確保すべき品質水準を基本として設定する。
製品の種類や構成によって、品質管理の水準は変わってきますし、企業・工場などによっても様々です。抜き取り検査で判明した不適合品が他のアイテムと置き換えが可能であったり、不具合があっても重要ではないと判断される場合は、aqlはゆるく設定することができます。逆に重要な部品であったり、置き換えが不可能な場合、高価である場合などは、厳しいaqlを設定する必要があるでしょう。
●納品先などと協議し、AQLの指定があればそれに従う。
●重要と思われるOC曲線図を参考とし、P0などから判断する。
●過去の類似品などから実績を調べ、その工程平均の計算を参考とする。

製品の納品先や供給先には、製品の品質や指標を独自に設定している場合があります。まずは、その指標に従うのが基本と言えます。また、過去の実績や拭き取り検査の付表など、すでに存在している指標を参考にAQLを設定する方法もあります。新製品の場合でも、似たような実績からAQLの目安を取り出すことが可能ですし、その方がやみくもにAQLを決定するよりも近道と言えます。

ただし、過去の実績があるからと言っても、必ずしもその製品品質が過去の例と同じ、または良くなるという保証はありませんので、くれぐれも注意が必要です。これらは、あくまでAQLを設定する上での目安の一つだからです。

AQLの計算と設定方法~その2

前回に引き続き、製品の品質管理の際、AQLの計算と設定をどう判断すべきかについて解説させていただきます。

●合格ロット内の不適合品によって起こりうる損害と、ロットが不合格となる場合の損害が、等しくなるような品質を損益分岐点から推定し、AQLを設定する。

AQLは、あくまでも「工程平均において合否を判断する基準値」ですので、それが全ての製品の品質を保証するものではありません。しかしながら、消費者は、基本的に抜取り検査が行われた製品は良品であると仮定して入手します。とはいえ、実際は合格ロットの中にも不適合品は存在しますし、逆に不合格としたロットでも、実際は合格レベルであるという場合もあります。AQLの設定が工程平均と大きくずれてしまえば、生産コストが上がったり、製品の品質が低下したりしてしまいますので、バランスをとることが重要です。製品の品質が良ければAQLは小さく設定できますし、検査のコストは低減します。

また、抜取り検査において、最初に必ずAQLを設定しなければならないかというと、必ずしもそうではありません。先に抜取り検査表で抜き取り検査方式を選び、望む結果を得られるようなAQLを導きだすという手順でもかまいません。肝心なのは、諸々の要素を十分考慮し検証したり計算することによって、「その製品にとっての適切な品質とAQL」を見つけ出すことなのです。

そうした手順をたどることにより、適切な品質管理が可能となるわけです。不適切なAQLの設定により、後から「検査のための検査」が増え検査コストがかさむ、といった事態が生じることは、何としても避けるべきでしょう。

AQL品質管理における品質特性の分類

AQL品質管理における品質特性には、いくつかの分類があります。品質特性は、品質の要素、品質を評価する対象のことで、「真の特性(実用特性)」と「代用特性」とに大別されます。「真の特性」とは、消費者が求める品質そのもののことであり、具体的な測定方法と数値で表現することができます。
しかしながら、主観的な品質や数値化できない品質もあります。それは、「代用特性」として、測定可能な特性値を用いて判断します。

●企画品質
製品を企画する段階で決める品質のことです。
消費者が望んでいる品質がどの程度かを定義してから、それを製品の品質の骨格とします。

●設計品質
「ねらいの品質(Quality of design)」とも呼ばれ、製品の設計段階において、技術面の能力や原価、売価などを考慮しながら品質を設定したものです。運用していく上での釣り合いを付け加え、品質目標とします。

●製造品質
「できばえの品質」であり、「適合品質(Quality of conformance)」とも言われ、製造された製品の品質のことです。設計の段階で「設計品質」を設定しても、製造する過程で品質は変動し、設計していた品質と、実際に製造された品質との間には、差が生じてきます。

●使用品質
「製造品質」は、製造した側が判断する品質ですが、「使用品質」は、実際に消費者がその製品を使用したときに判断する品質を意味します。通常、「製造品質」と「使用品質」が一致することはありません。したがって、AQL抜き取り検査などにおける判定基準が品質の標準となります。

AQLの必須知識(当たり前品質・一元的品質・魅力的品質)

AQL品質管理の対象となる「品質」には、次のような種類があります。

●当たり前品質(must-be quality)
製品が備えている品質特性が、当然(あって当たり前)である場合を「当たり前品質」と呼びます。これは「後向き品質(backward quality)」とも言われ、品質が当たり前と捉えられているため、通常は品質を意識することがありません。
その品質が欠けた時に、初めて不満足を感じる品質が「当たり前品質」なのです。

●一元的品質(one-dimensional quality)
一元的品質とは、自分が求めている品質に、与えられた品質が満たない場合は残念に感じ、満たされれば満たされるほど、申し分なく感じる品質を意味しています。最近では、求めている品質が「得られない=不満足」、「得られた場=魅力的」と感じる傾向が強いため、この中間が品質値として中立であるとされています。

●魅力的品質(attractive quality)
「前向き品質(forward quality)」とも言われ、品質が消費者の予想していなかったレベルであることです。そもそも期待はしていなかったので、消費者にとっては無くても気にはなりませんが、気付いた時には付加価値が強調され、より魅力的であると感じます。顧客満足度などはこれに当たり、魅力的品質を向上させていけば、製品などに対する付加価値も比例して大きくなります。

上記3つの品質分類の他にも、「無関心品質」、「逆評価品質」、「矛盾品質」などがあります。

AQLを知るための品質管理用語解説

AQLの説明に入る前に、まずは「品質管理」の概念の本質について説明させていただきます。

「品質管理(Quality Control=QC)」とは、企業が行う活動体系のひとつで、自社の販売商品やサービスの品質を向上させたり、製品を生産する過程において合理的に行うための手段や手法を検討したりすることを意味します。QCは、現在は主に製造現場での取り組みという意味合いが強く、工場の品質管理手法などを指すといっていいでしょう。

品質管理(QC)の考え方を発展させ、製造部門以外の部門(企画・設計・営業・管理・顧客サービス・マーケティング部門など)まで広げ全社的な活動となる場合を、「全社的品質管理(Company-Wide Quality Control=CWQC)または「総合的品質管理(Total Quality Control=TQC)」と呼んでいます。CWQCまたはTQCは、製品の企画や設計から製造・販売・顧客へのアフターサービスにいたるまで、企業の生産活動全体において品質管理を行うことを目的にしています。経営者から作業員まで、一部門だけでなく関わる全員が品質管理に取り組む点も、QCとは大きく異なる点ですね。このTQCが発展したものを、「総合的品質経営(Total Quality Management=TQM)」といいます。

TQMは、経営者側の意思決定により全社的に品質管理が展開されるトップダウン型のTQCで、企業の経営戦略を製品目標や販売目標、顧客満足度目標まで落とし込み、品質マネジメントを行います。現在はマネジメントという考え方が浸透したことにより、「品質管理」という概念は、このTQMへと切り替わってきています。

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